
認知症の方への対応では、伝えたつもりでも拒否されたり、話がかみ合わず混乱が強まったりする場面があります。
原因は、理解や記憶の力が落ちていることに加えて、不安や警戒が高まりやすいことです。
介護職員がこういう時にしっかり対応できるかどうかで利用者様の生活の質は大きく変わると私は考えています。
この記事では、認知症の方への対応のコツとして、拒否や混乱を減らす声かけの基本と、現場でそのまま使える例文を整理します。
入浴や食事、受診などで止まってしまう場面でも、無理強いを減らし、安心してもらうための具体策が分かります。
要点まとめ
- 声かけは短く、一度に一つだけ伝えると混乱が減ります。
- 否定や訂正を急がず、気持ちを受け止めて安心感を先に作ります。
- 拒否は理由があることが多いため、命令より提案と選択肢で進めます。
拒否や混乱を減らす基本は「安心感・短く・一つずつ」

まず驚かせない、目線と距離で安心を作る
認知症の方は、状況の理解が追いつかないと不安が強まりやすいです。
不安が強い状態で指示を出すと、拒否や怒りにつながる場合があります。
声かけの前に、相手の視野に入ってからゆっくり近づきます。
背後から急に声をかけないことは、混乱を減らす基本です。
よくある例としては、利用者様が突然どこかに行こうとされた時などですね。
後ろから肩をつかんで「どこいくの?!」というと
利用者様はほぼ間違いなく警戒し、その手を振り払うでしょう。
しかし、敢えてその方を一度追い抜くなどしてから
正面から話しかけてみるとどうでしょう?
例えば「あれ?〇〇さんこんなところで会うなんてどうしたの?」
みたいに、さも今偶然道であったかのように。
すると利用者様は知り合いと会って話すように
「実は〇〇に行こうと思って」
という風に話をしてくれやすくなります。
このように目線を合わせ、やさしい口調で短く話すと受け入れやすくなります。
複数人で囲んだり、いきなり動きを止めたりすると恐怖感が出ることがあるため、
対応者はできるだけ一人にします。
指示は「短く」「一つずつ」で成功率が上がる
認知症では、複数の情報を同時に処理することが難しくなる場合があります。
そのため長い説明や、まとめての指示は混乱の原因になります。
1回の声かけは1行動にし、次の行動はできてから伝えます。
たとえば更衣なら「上着を脱ぎましょう」の次に「次はズボンです」と区切ります。
早口や大声は、内容よりも圧を感じさせることがあります。
ゆっくり、はっきり、短くが「認知症の方への対応のコツ」として有効です。
もし話が聞こえていないと思ったら、しっかり目を合わせて自分の存在を認知してもらってから
話してみると案外するっと話を受け止めてもらえることがあります。
否定しない声かけに変えると、拒否がほどけやすい
「違う」「さっき言った」は混乱の火種になりやすい
認知症の方は、間違いを指摘されると自尊心が傷つきやすいです。
結果として怒りや拒否が強まり、ケアが進まないことがあります。
特に「ダメ」「違う」「さっきも言ったでしょ」は避けたい言葉です。
訂正が必要でも、まず受け止めてから方向づける方がスムーズです。
現場では「説明しているのに伝わらない」という声も多いです。
これは認知症の方が見えている世界と、私たちの見えている現実の世界に
ズレがあるためである可能性が高いです。
認知症の方は脳の病気ゆえに、自分にしか見えていない世界で過ごしていることがあります。
昔の職場であったり家であったりと、私たちと一緒にいる場所とは違う場所にいるのです。
そのため、現実世界のことをいくら説明されてもそれは理解が難しいのです。
このときは正しい内容を増やすより、相手の言葉も受け止めつつ、
言葉を減らして安心を足す方が効果的です。
共感→提案の順にすると受け入れられやすい
拒否の背景には、不安、羞恥心、プライド、警戒心が隠れていることがあります。
わがままと決めつけず、理由を探る姿勢が大切です。
声かけは「共感して安心」→「短い提案」の順にします。
たとえば「嫌ですよね」→「じゃあタオルをかけて入りましょう」のように進めます。
命令形より、選べる形にすると拒否が弱まる場合があります。
「今やる」か「少し後でやる」など、選択肢は2つ程度に絞ります。
場面別で使える声かけ例文(OK例・NG例)
入浴・食事・受診でのOK例とNG例
拒否が出やすい場面は、入浴、食事、受診、服薬、移動などです。
ここでは「短く・一つずつ・否定しない」を例文に落とし込みます。
| 場面 | NG例(混乱・拒否につながりやすい) | OK例(安心感+短い提案) |
|---|---|---|
| 入浴拒否 | 「早くお風呂に入って。さっきも言ったよ。」 | 「お風呂、嫌な気持ちになりますよね。タオルをかけて、体だけ洗いませんか。」 |
| 食事拒否 | 「食べないとダメ。みんな食べてるよ。」 | 「今は食べたくない気分ですね。お茶を一口にしますか。それともスープにしますか。」 |
| 受診拒否 | 「病院に行く日です。文句言わないで。」 | 「外に出るのは不安ですよね。先に上着を着いて、玄関で少し休みましょう。」 |
| 服薬拒否 | 「薬だから飲んで。飲まないと困る。」 | 「飲みにくいですよね。お水でいきますか。ゼリーにしますか。」 |
| 更衣 | 「着替えて。上も下も全部替えて。」 | 「上着を脱ぎましょう。できたら、次はズボンにします。」 |
OK例でも通らないときは、いったん離れて時間を置く方法もあります。
押し合いになるほど拒否が強まりやすいため、ペースの尊重が重要です。
すぐ使えるチェックリスト(声かけ前の確認)
同じ言葉でも、環境や関わり方で受け取られ方が変わります。
声かけの直前に、次の項目を確認すると失敗が減ります。
- 相手の正面に回り、視野に入ってから声をかけている。
- 目線の高さを合わせ、表情をやわらかくしている。
- 1回の声かけは1行動で、短い文になっている。
- 否定語(ダメ、違う、さっきも)を使っていない。
- 選択肢は2つまでで、答えやすい形にしている。
- 周囲が騒がしくない場所に移す工夫をしている。
「説明を足すほど混乱した」という声もあります。
この場合は、言葉を減らし、動作を見せて促す方が伝わることがあります。
注意点・補足
認知症の症状や得意な伝わり方は、本人の状態や病型、時間帯で変わる場合があります。
同じ声かけでも、施設の方針や人員配置、地域の連携体制で対応が異なることもあります。
拒否が強く、脱水や低栄養、強い痛み、せん妄などが疑われるときは、無理に進めない判断も必要です。
安全に関わる場面では、看護師や上司、主治医、家族と情報共有し、チームで方針をそろえます。
この記事の内容は、認知症ケアで共通して勧められる基本をまとめたものです。
認知症ケアには正解はありません。なので必ずこの声掛けで成功する!というものがないのです。
いろんな切り口やアプローチの仕方をしていくことで、その人にとってより良い声掛けの仕方が変わってきます。
実際の現場では、本人の反応を見ながら言葉の長さや距離感を調整します。
そしてここからはさらに持論ですが、
認知症ケアに正解はないといいましたが、
適していない声掛け・・・「不正解」は確実にあります。
相手を馬鹿にするような言い方や威圧して押さえつけるような言い方。
明らかに職員側に都合のいい嘘をつくことなど。
利用者様の尊厳を失わせるような声掛けは不正解といっていいでしょう。
まとめ
認知症の方への対応のコツは、拒否や混乱を減らす声かけとして、短く一つずつ、否定せず安心感を先に作ることです。
実際こうして解説はしていますが、私もすべての利用者様に適した声掛けができるわけではありません。
これがいいと思ったもので大失敗することもあります。
性別や人柄などでも左右される部分ではありますので、自分にとってふさわしい声掛けの仕方などを
模索するのも介護職員の使命なのかもしれませんね。
今日の行動として、入浴や食事の前に「1回1行動の声かけ」を1つだけ試し、反応を記録して次に活かしていきましょう。